『せいめいのはなし』 福岡伸一 25-179-3575
内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司の四氏との対談がこの本に収められているのですが、すべての方が『生物と無生物のあいだ』を読んでいて、動的平衡(どうてきへいこう)について語られているのが面白かったです。
「生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられる」という動的平衡。例えば、一見同じ人のように見えていても、時々刻々と身体は変化し続けているのですから、「ちっともおかわりないですね」なんてことはないのです。自分自身でも、徐々に老いていくという変化は感じても、自分はずっと同じ人間だと思い込んでいるのです。
(福岡)これだけ不確定なことだらけの世の中で、唯一確実なのは、人は必ず死ぬということだけです。人が死ぬというのは生物学的に言うと、非常に利他的なんですね。だから、死んで世代交代することが動的平衡、つまり新しい状態をもたらすことなので、絶え間なく入れ替わっているということは、自分の身体の中が入れ替わっていることでもあり、ガンを抱えながら生きているということでもあり、また、死んで新たな生命が生まれるということでもある。
(川上)もし永遠に生きたら、自分がガン化していることになるわけか。
(福岡)そうそう
通常の細胞は近くにある細胞と会話をしながら自分の形を変えていくのですが、それができない孤独な細胞があるのだそうです。それが暴走してしまった結果がガン細胞になるという話を読んでいると、身体の中の細胞も人間も同じじゃないかと思えてくるのです。
三つの高さ(三高)があるならば、三つの低さがあると川上さんはおっしゃったわけですが、よく考えてみると、三つの高みを作るためには、動的平衡の観点から言って、四つの低さがないといけない。
三高が高学歴、高身長、高収入だったら、その男の影の顔には、マザコン、DV、浮気、浪費みたいな四つの低さがあって、三つの高さと平衡状態を取って、こう、ぬめぬめと動いていくんじゃないかというふうに、三高には四低がつきものですよと、川上さんにお伝えできたらと思っています(笑)。
そういえば、昔いた職場には大学の先生がよく出入りしていたのですが、「あの教授は結婚してからも、お母さんに靴下はかせてもらっているらしいよ」なんて話を聞いてゾゾ~としたことを思い出しました。
表面上だけでは、わからないことが世の中にはたくさんあります。勉強だけは出来ても、それ以外は何にもできない人なんて、そこかしこにいますから。逆に、乱暴者のように見えていても、心優しい人だっているし。完璧な人なんていないんだから。
「動的平衡」のことを意識しつつ生きていくと、たいていのことは納得できてしまうような気がします。
そして、レーウェンフックの顕微鏡の話で登場した「フェルメール 光の王国」も読みたくなりました。
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