『他人屋のゆうれい』 王谷晶 25-239-3635
伯父さんが急死してしまって、その部屋の後片付けをすることになった大夢(ひろむ)くん。当然事故物件となるわけで、大家さんから「もしもここに住んでくれるなら格安で貸すよ」と言われて、今いるシェアハウスより家賃が安いのが魅力て引っ越してきました。
伯父さんは長男なのに、故郷の家を離れたっきりだったので、親戚筋での評判は凄く悪いんですけど、こっちで親交があった人たちはみんな「いい人だった」と言っていて、そのギャップに悩む大夢くんです。
伯父さんは、この部屋に『他人屋』という看板を出して便利屋をやっていたらしいということはわかったけれど、それ以外のことは全くわかりません。この部屋で暮らすようになって数日後、部屋の中に幽霊らしき影が見えて、大夢くんはギャーと飛び起きたのでした。
大夢くんは人見知りで、家族も含めて誰とも関わらずに生きて行けたらいいと思っています。だから、誰かと顔を突き合わせないで仕事ができるコールセンターのオペレーターは、非正規だし、クレーム担当だけど、学歴も特別な能力もない自分にとって、そんなに悪いものじゃないと感じているようです。
向かいの書店の兄さんも、管理人さんも、そして、この部屋に取り憑いているらしい幽霊も、みんな面倒くさい奴という感覚でいたけれど、それぞれのことが少しずつわかってくると、自分が持っていた嫌悪感は、大夢くん自身が勝手に作り上げてきたものだと気がつくようになってくるところが面白かったです。
この本の中で描かれている大夢くんの生活は、王谷さんの体験から生まれているものなのでしょうね。せっかく東京に出てきたのに、ちっともキラキラしていない自分に辟易しながらも、何とか生きている彼のような若者が大勢いるんだろうなぁ。
3635冊目(今年239冊目)
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