『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』 松本祐貴 25-260-3656
現在日本の行方不明者は年間9万人、およそ約1000人に1人にのぼる。
この本の中で、自分の意志で失踪した何人かにインタビューをしています。親から逃げた人、暴力団や闇組織から逃げた人、どちらにしても見つかったらマズイという意識で逃げています。怖い組織から逃げる時には、家族から失踪届を出されてしまうと、知られたくない人にまで自分の居場所がわかってしまう場合があるので、家族には「これこれしかじかの理由でいなくなるけど、失踪届は出さないでください」という置手紙をする人がかなりいるそうです。
失踪した先で、身分を明かさずに働こうとすると、まっとうな仕事は余りありません。悪徳不動産業者とか、性風俗などが中心ですが、ヒモになる人もいるし、ホストになってがっちり稼いでいた人もいます。でも、そろそろ大丈夫かな?と地元に戻って、見事にボコボコにされてしまった人もいて、とことん別人としてやっていくのはなかなか大変なことのようです。
そして、ほとんどの人がギャンブルや薬物の依存症を抱えていることが多いということを初めて知りました。ギャンブルであっという間に大金を使ってしまう。薬物やアルコールが原因で善悪の判断がつかなくなってしまう。そういう事が失踪しなければならない事態を招いているのです。そういう事態になることを防ぐためには、子どもの頃の教育である程度は阻止できると思うのですが、親がそういうタイプの人間であった場合、子どもが同じような道を歩んでしまうのを止めることは、ほぼ無理なのだろうなと感じました。
この本では、失踪した側の話がほとんどですが、失踪されて残されてしまった家族には、様々な問題が発生します。失踪するのは圧倒的に男性が多いので、残された家族には生活費の問題が出てきます。こんな夫と離婚したいと思っても、失踪届を提出してから7年経って「死亡とみなす」状態にならないと離婚もできません。
この法律については、夫に失踪されてしまった、わたしの友人から教えてもらいました。失踪から7年経ったら自動的に死亡とみなされるわけではなく、家庭裁判所へ申し立てる必要があります。そうしないと離婚も相続もできないって、普通の人は知りませんよね。
・まえがき
・第1章 30年間実家に帰らず父と死別したAV男優
・第2章 父の失踪 18歳から風俗で働く娘を誰よりも愛していた
・第3章 突然、妻がいなくなった 認知症行方不明の課題
・第4章 薬物でスリップと失踪を繰り返す
・第5章 持ち前の正義感で人を傷つける事件を起こす
・第6章 オカマバー、闇金、ホストを経験し、フランスでスリ集団として暮らす
・おわりに
警察の身元不明者のカウントでは、借金や犯罪がらみで自分の意志で失踪する人だけでなく、認知症で行方不明になる人も含まれており、近年はこちらの方が多くなっています。徘徊老人の問題はいろいろなところで話題になっていますが、実はかなり深刻な問題なのです。認知症になっても、体力がある人の場合、想像以上に遠くへ行ってしまうことがあったり、草むらに迷い込んだり、川に落ちたりすることもあります。
最近の夏のように猛暑だったり、寒い冬に行き倒れてしまうと、たった1日で命を落としてしまう事もあるのです。そして、どこかで亡くなったということがわかれば、まだいい方なのだそうです。行方不明になったきり、何年も見つからない方のご家族のお話は、とてもつらいものがありました。
失踪って、意外と身近なことなのだと、改めて考えさせられてしまいました。
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