『アルジャーノンに花束を』 ダニエル・キイス 25-290-3686
アルジャーノンに花束を 新版
Flowers for Algernon
ダニエル・キイス
Daniel Keyes
小尾芙佐(おび ふさ)訳
ハヤカワ文庫NV
米国 1959
2025年 早川書房創立80周年記念フェア『ハヤカワ文庫の80冊』
幼児なみの知能しかない32歳のチャーリイは知能向上の手術を受けることになりました。同じ手術を受けた白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受け続けていきます。
手術は成功し、チャーリイの知能はドンドン向上していきます。これまでは字を読むことも、計算することも不得意だったのに、スラスラとできるようになっていきます。パン屋さんでの仕事も、それまでは掃除だけだったのに、もっと複雑な仕事もできるようになっていきました。
ネズミのアルジャーノンも複雑な迷路を間違えずに進めるようになりました。ふたりは着実に「かしこく」なっていったのです。
チャーリイの知能は普通の人どころではなく、IQ185まで進んでいきました。外国語で本を読むこともできるし、論文を書けるようにもなりました。知能はどんどん伸びていくけれど、感情の方はついていけません。世の中の善悪とか、男女の事とか、感情のコントロールが上手くできません。
子どもの頃の両親との嫌な思い出を思い出すことが増えました。パン屋さんで一緒に働く人たちからバカにされていたことも思い出しました。当時はどうってことないと思っていたのに、それは自分が理解できていなかったからだったということも分かってきたのです。
チャーリイはある日、知能が低い人を見て笑っている自分に気がつきました。そういうことは失礼なことだと理屈では分かっていても、滑稽に見えて笑ってしまう自分。相手を見下している自分の行為に驚きます。
自分は優秀だと思って、そうではない人の尊厳を無視するようなことをしてしまう自分って、何と愚かなんだろう!
アルジャーノンを観察し続けたチャーリイは、手術の効果が少しずつなくなっていくことに気づきました。そしていつかは、自分も同じようになるだろうことも予見できたのです。
どんな人だって、歳を取れば忘れっぽくなり、運動機能が衰え、人によっては認知症になります。でも、そのスピードはゆっくりだから、ある程度折り合いを付けていくことができます。でも、チャーリイの場合は、余りにも急激に知能が進み、同じように、あっという間に知能が減退していきます。どんどんできることが少なくなっていくことにいら立ち、救いの手を差し伸べようとする人に冷たく当たってしまいます。それは、まるで「老い」のように。でも、手術から1年も経っていないのです。
頭がよくなりたいと願って手術を受け、本当に頭がよくなって自分は幸せだと思えた時間が、余りにも短かったような気がします。いろんな嫌なことに気がつかずに生きてこられた頃の方が、本当は幸せだったんじゃないかと思う場面もありました。
チャーリイが自分は手術をした医師たちのモルモットだったんじゃないかと思い、非難の言葉を浴びせてしまったり、親身になって世話をしてくれた人の気持ちが理解できなかったり、胸が苦しくなる時が何度もありました。
彼にとって、アルジャーノンだけが友達だったのでしょうか?
だとしたら、余りにも悲しい。
3686冊目(今年290冊目)
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