『なぜ日本文学は英米で人気があるのか』 鴻巣友季子 26-1-3760
最近、海外で日本文学の人気が上がっているという記事をよく見ます。ミシマとかカワバタとかの古典だけでなく、やはり村上春樹がその推進力になったのは確かです。でも、最近話題になっているのは女性作家の作品なのです。柳美里、小川洋子、村田沙耶香、市川沙央、柚木麻子、そして2025年ダガー賞翻訳部門を王谷晶の「ババヤガの夜」が受賞したというニュースは、世間を騒がせました。
英語ネイティブは翻訳で何かを読むことにあまり慣れていない。翻訳書を敬遠する傾向にある。だから、その言語ならではの言い回しは英語風に改められ、その文化独自の習慣などもばっさりとカットされることがあった。忠実さを旗印にしている日本の翻訳界からすると、腰を抜かす大胆な改訂や編集を見かけることもあった。P194
外国の言葉を日本語に翻訳して出版する場合、訳者の名前は必ず明記されます。日本ではこれが当たり前です。ところが、英語圏内では、これが当たり前ではなかったということに驚きます。英語ネイティブの一般読者の場合、わざわざ外国の作家の作品を読もうという意識は低いので、その国の作者であるような感覚で翻訳書を読んでいるのだそうです。ですから、訳者が本に明記されていないことが多かったそうです。
このままでは良い翻訳者が生まれるはずがありません。日本の文化庁は、イギリスの大学と協力して翻訳者を育成するプログラムを作ったのだそうです。そして、翻訳者の地位向上にも努めた結果、日本語の作品がこれよりも多くイギリスで出版されるようになったのだそうです。
外国の風習や、食べ物など、見たことも聞いたこともないものが作品の中に登場することは、よくあることです。それを意訳するのではなく、そのままの名前で表記して、脚注やルビなどで説明するという事が、日本では普通に行われてきました。こういう対応方法が、外国でも取り入れられてきているというのも面白いところです。
英語ネイティブは世界人口のたった6%で、75%は英語を話せないのに、英国の人口の75%は英語しか話せない。
この本の中で、翻訳本の話だけでなく、英語しか使えない人(モノリンガル)が生み出す壁についても語られています。英語が世界の中心だと勝手に思っている英米の思考は、世界的に言えばかなり偏っているというのは、鋭い指摘だと思います。
ウクライナのゼレンスキー大統領がトランプ米大統領とバンス米副大統領と会談をした時、ゼレンスキーが英語で話してくれていることに全く敬意を払っていないし、それどころか非難までしている。(P198)
これは明らかに英語至上主義のパワハラですよね。
ヨーロッパの人たちにとって、マルチリンガルなのは当り前なことです。たとえば、ツール・ド・フランスの選手インタビューの時、インタビューアは選手がイタリア人ならイタリア語、ドイツ人ならドイツ語、オランダ人ならオランダ語で会話をします。そういうことこそが国際感覚なのです。
まずは英語で、それを足掛かりに他の言語でもという翻訳書は増えていくでしょう。実際、マンガはどんどんマルチリンガル化してますもの。(たとえば、ヤマザキマリさんの夫はイタリア人ですが、マリさんのマンガをフランス語訳で読んでいるそうです)
子どものころから、外国の作品を読んでは、自分が知らない世界での物語にワクワクしたものです。それと同じようなことを外国の人も感じているからこそ、日本文学は海外でも読まれているのです。こんな話、読んだことがない! こういう世界があるんだ!そういう楽しみ方をする人が増えるって、とても良いことだと思います。これも相互理解の一端になると思うのです。
日本語の作品が他言語の人に読まれるようになり、逆に今まで知らなかった外国の作品を日本語でも読める。そういう時代になってきているのだと思うと、とてもワクワクしてしまいます。
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