『地下鉄道』 コルソン・ホワイトヘッド 26-12-3771
地下鉄道
The Underground Railroad
コルソン・ホワイトヘッド
Colson Whitehead
ハヤカワepi文庫
米国 2016
2025年 早川書房創立80周年記念フェア『ハヤカワ文庫の80冊』
2017年 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞受賞
地下鉄道とは、19世紀アメリカの奴隷解放運動で使われた秘密の逃亡ルートのことですが、この物語の中では、奴隷を逃がすための地下鉄道があるという設定で話が進みます。
南北戦争後、北部では自由黒人となった人が増えましたが、南部では相変わらず奴隷制度が存在し続けていました。劣悪な環境から逃れようとする人がいるのは当然で、よその土地へ逃亡する人が増えました。彼らを所有していた農場主は、見せしめという理由もあって、賞金をかけて徹底的に探す行動に出ます。他の州へ逃げても捕まえて元の場所へ戻すことができるという法律もでき、賞金稼ぎが逃亡者を追いかけます。
逃亡した人たちを助けようとする白人もいます。でも、それが見つかったら彼等だって囚われてしまうのです。そんな危険を冒しても、彼らを家に匿い、地下鉄道でより安全な土地へ運んでいたのです。
この物語の主人公コーラは、シーザーに逃亡しようと持ち掛けられても、最初はそんなこと無理だと思っていました。逃げようとしたけれど捕まって酷い目にあったり、殺されたりした人たちを多く見てきたからです。でも、最終的には地下鉄道で「より自由な土地」へ逃げる選択をしました。
そして、より安全な場所へ辿り着けても、決して油断はできないのです。お尋ね者である自分のことを密告する人がどこにいるかわかりません。それは白人だけでなく、黒人であるかもしれないのです。
確かに、彼らが白い黒んぼ(ホワイトニガー)であろうと、アイルランド人をアフリカ人のように扱うことはできない。奴隷を購入し維持するには費用がかかる一方、白人労働者につましいながらも給金を払うことにも費用がかかる。
こんな風に南部の農場主たちが考えていたことは、白人の移民にもわかっていたのです。ですから、一番積極的に密告をしていたのはこの人たちだというのです。
この構造って、今のアメリカそっくりですよね。アメリカへ行けば何とかなるという希望を持ってやってきた白人たちが、今はホワイトトラッシュと呼ばれるような状況になって、この作品が発表された時点から150年前の南部と同じメンタルになってしまっているのです。こんな状況を憂いて、著者はこの作品を書いたというのです。
おれの主人は言った。銃を持った黒んぼより危険なのは、本を読む黒んぼだと。そいつは積もり積もって黒い火薬になるんだ!
奴隷だった黒人たちには、一切教育を与えずにいました。字が読めるようになって、他の世界があることを知られては困るからです。今は黒人だという理由で教育を受けられないことはなくなりました。そのかわりに、「貧困」が教育を奪っています。
人種による差別、宗教による差別、そういうものが蔓延するアメリカ。この国は、偉大な国だったはずなのに、それはハリボテだったということが、少しずつ露見し、内部から崩壊しつつある状況です。こんなアメリカが立ち直ることはできるのでしょうか。それをできるのが、あの大統領ではないという事だけは確かですけど。
関連図書
『The Drinking Gourd』 F.N. Monjo
3771冊目(今年12冊目)
« 『タクジョ! あしたのみち』 小野寺史宜 26-11-3770 | トップページ | 『世界はフムフムで満ちている』 金井真紀 26-13-3772 »
「英米」カテゴリの記事
- 『イラストで見る都市伝説の歴史』 アダム・オールサッチ・ボードマン 26-233-3992(2026.08.19)
- 『存在しない女たち 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』 キャロライン・クリアド=ペレス 26-185-3944(2026.07.03)
- 『ヒトラーのモデルはアメリカだった』 ジェイムズ・Q・ウィットマン 26-175-3934(2026.06.23)
- 『希望を運んだ図書館』 ローレン・H・カースティン 26-145-3904(2026.05.25)
- 『スカートと女性の歴史』 キンバリー・クリスマン=キャンベル 26-85-3844(2026.03.26)
「文庫フェア」カテゴリの記事
- 『魔力の胎動』 東野圭吾 26-250-4009(2026.09.05)
- 『ラプラスの魔女』 東野圭吾 26-239-3998(2026.08.25)
- 『キッチン常夜灯 満月のキッシュロレーヌ』 長月天音 26-229-3988(2026.08.16)
- 『ろくべえ まってろよ』 灰谷健次郎 26-212-3971(2026.07.30)
« 『タクジョ! あしたのみち』 小野寺史宜 26-11-3770 | トップページ | 『世界はフムフムで満ちている』 金井真紀 26-13-3772 »




コメント