『小泉八雲 漂泊の作家ラフカディオ・ハーンの生涯』 工藤美代子 26-3-3762
わたしがこれまで小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)に持っていたイメージは、外国から松江にやって来て、日本の美しさや不思議さに惹かれ、「怪談」などの文章を通して日本という国を世界に伝えた人という感じでした。彼の生い立ちとか、日本に来る前には何をしていたのかなど、ほとんど知りませんでした。
朝ドラ「ばけばけ」の中で、日本に来る前にはアメリカで新聞記者として働いていたこと、幼少期から父と母との縁が薄かったこと、を知りました。この本では、日本に来る前のラフカディオ・ハーンのそういう過去について、かなり詳しく語られています。
元々繊細だった彼が、10代のころからたった一人で生きなければならなかった日々は、人間不信を更に大きくしていったのでしょう。生きる場所を求めて行ったアメリカで、余りにも酷い人種差別を目の当たりにして、自分自身ギリシャとアイルランドの混血であるということを、より強く意識したのかもしれません。もうアイルランドには帰れないし、アメリカにも絶望してしまったからこそ、遠くの国、日本に行ってみようという決断をしたのかもしれません。バンクーバーから横浜までの17日間の船旅で、船底の一番安い席にいた中国人が、家族の遺骨を祖国へ届けようとしている姿に、何を思ったのでしょうか。
日本へやって来て、最初に想定していた仕事には就けませんでしたが、松江での英語教師という仕事を得たのは、ハーンにとって何よりの幸運だったのだと思います。見るもの、聞くもの、すべてが彼にとって「すばらしい」ものだったし、セツという女性に出会えたのは運命としか言いようがありません。
ハーンは人間関係を上手く築くことができない人でした。自分だけが酷い目にあっていると感じることが多かったのかもしれません。これまで女性を愛したことはあっても、愛されたことがなかったのかもしれません。でも、セツはどんなことでも受け入れてくれるし、いつも優しく接してくれる女性でした。
日本という竜宮城で幸福な時間を過ごすことに執着したのではないでしょうか。
セツと暮らす生活は、乙姫様と暮らす竜宮城のようなものだと、ハーンは気づいていたのかもしれません。だから、ここから出ていってはいけないと決めたのかもしれません。
私は鳥や猫、虫、花そして奇妙な小さいものたちについての勉強を続けなければなりません。そして、帝国の運命に関する問題は、頭の良い人たちに任せましょう。
日本は少しずつ西洋化し、近代化していた時代です。でも、それを手放しで喜んではいけないと、ハーンは本能的にわかっていたのかもしれません。だからこそ、この「美しい国」を自分の文章で残さなければならないと思ったのでしょう。
ハーンは54歳で亡くなりました。早過ぎる死であったのは確かですが、もう少し長生きていたら日清、日露という戦争に巻き込まれてしまったかもしれません。それらに関わらずに亡くなったのは、実は幸せなことだったのかもしれません。
〇小泉八雲関連
『ヘルンとセツ』 田渕久美子
『黒い蜻蛉』 ジーン・パスリー
『雪女 夏の日の夢』 ラフカディオ・ハーン
3762冊目(今年3冊目)
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