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『むすびや』 穂高明 26-58-3817

Musubiya

むすびや

穂高明(ほだか あきら)

双葉文庫

 大学を卒業はしたけれど、就職に失敗し、家業の「むすびや」を手伝うことになった結(ゆい)です。女の子みたいな名前のせいで、小学生の頃はよくからかわれました。口の悪い同級生に家の商売のことを笑われたこともありました。それに言い返すこともできず、うちのお父さんもよその家みたいにサラリーマンだったらよかったのに、と思ったこともありました。大人になっても、そういう事を時々思い出します。子どもの頃のイヤだったことって、なかなか忘れられません。

 結は、おむすびなんて、そんなに難しいものだとは思っていませんでした。どうして、毎朝鰹節を削るのかもわかっていませんでした。市販の鮭フレークではなく、ちゃんと鮭を焼いてほぐしているし、ぬか漬けだって自家製です。そういう手間をかけた仕事が、おいしさにつながっているということを、店を手伝うようになるまではわかっていませんでした。

 商店街のお米屋さんのおじさんや、青果店を継いだ同級生、近くに住む留学生チョルスくん、そういう人たちと話をするうちに、結は「むすびや」の存在価値を、少しずつわかってきました。

 

 わたしが子供の頃、友達の家が何で生計を立てているのかを、お互いに知っていました。肉屋、八百屋、酒屋、パン屋、豆腐屋、牛乳屋、クリーニング屋、プレス工場、メッキ工場、自動車修理、大工、鳶、印鑑を彫る職人、ペンキ屋、材木屋、警官、居酒屋、スナック、甘味店、雀荘、そしてうちは洋服の仕立て屋。みんな、自分の家だけでなく、友達の家のお父さんやお母さんが働いている姿を見ながら育ちました。だから、このお話のように「お前んち○○屋だろ」なんて言われることはありませんでした。

 みんな顔がわかっているから、近所にスーパーマーケットができても、米は米屋、肉は肉屋という買い方をしていました。値段がどうのじゃなくて、お互いに助け合っているという感覚だったのだと思います。だから、あそこの店はねぇなんてことは、大っぴらには言いませんでした。でも、「あそこの医者はヤブだ!」という話はしてました。これは大事な情報ですから(笑)

 仕入れも、接客も、帳簿付も、全部やって、残業もつかないし、休みの日も少ないし、自営業はたいへんです。でも、このお店みたいに自分のこだわりを持って働けたら、それはとても幸せなことだと思います。結くんも、それに気づいたようで、ホッとしました。

3817冊目(今年58冊目)

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