『富士山』 平野啓一郎 26-60-3819
この作品を読んでいると、わたしという人が複数人存在するのだと思えてきます。あの分岐点で右へ行ったわたしと、左へ行ったわたし。今自分が生きている世界はそのどちらか一方であるはずなのに、反対側へ行ったわたしと突然入れ替わるなんてことはあるのでしょうか?
この5篇が収められています。
・富士山
結婚しようと思っていた相手のことを、信頼できなくなっていた主人公。でも、その人が実は誠実な人だとわかったときのショックって計り知れない。
・息吹
もしあの時の選択が、自分の生死に関わるものだとしたら。それをいくら説明しようとしてもわかってもらえないのは、しょうがないことなのかな。
・鏡と自画像
死刑になりたいと思い、区役所で質問してみたら、3人以上殺す必要があると教えてくれた。でも、それを実行するのはかなり難しい。
・手先が器用
祖母から、あなたは手先が器用と言われて育ったわたし。
・ストレス・リレー
誰かの機嫌の悪さが連鎖する。それは、永久に続くものなのか。
「手先が器用」は短い作品なんだけど、とっても気にかかるんです。わたしも手先が器用なのですが、実家ではちっとも目立たない能力だったんです。だって両親とも手先が器用だったし、親戚を見回しても不器用な人がいませんでしたから。学校へ行くようになって、始めて自分の器用さに気がついたんです。
大人になってから母にそんな話をしたら、「家だとみんなできちゃうことだから、小さいときに褒めてあげられなくて、ごめんね」と言われたことがありました。
「ストレス・リレー」のように、誰かの不機嫌が伝染していくというのは、怖いですね。不機嫌だから、言葉がキツくなったり、言わなくてもいいことを言ってしまったり、それを聞いた方も嫌な気持ちになって、それがつながっていき、しまいには集団ヒステリーになっていくのかもしれません。コロナ禍の頃は、ずっとそういう感じでしたね。
自分は大したことを言ったつもりではないのに、相手にとっても致命傷になってしまうこともあります。逆に、相当ひどいことを言っているのに、全然それが伝わらないこともあります。人と人との関係って、実に難しい、だからこそ興味深いともいえるのですけど。
3819冊目(今年60冊目)
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