『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』 汐見夏衛 26-92-3851
母と二人暮らしの百合は、いつもイライラしていました。学校はつまらないし、母親とも上手くいっていなくて、今日も喧嘩をしてしまい、家を飛び出してしまいました。戦争の時に防空壕だったという場所で一晩過ごそうと思っていたのに、気がついたら戦時中の日本にタイムスリップしてしまったのです。
何も分からずにいた彼女を、偶然に出会った彰さんが、家族と離れ離れになってしまった子だと思ってくれたようで、食堂を経営するツルさんに紹介してくれて、そこに住まわせてもらうことになりました。戦時中の食糧不足のことや、学徒動員や、空襲のことなどを、学校では教わっていたけれど、現実にはこんなに大変なことなのだと身をもって知る百合でした。
親切にしてくれた彰さんは特攻隊の人で、仲間たちと一緒にときどき食堂へやってきます。彼の優しい人柄に惹かれる百合ですが、彼が出撃する日が近づいてきます。
元の世界でのシングルマザーの母との暮らしは、百合にとって「わたしって不幸」でしかなかったのに、戦時中に身を置いてみれば、元の世界は幸せだったのだと気づきます。特攻隊の青年たちは望んでそこにいるという事になってますけど、実際には死にたくない、大事な人と一緒に暮らしたい、という気持ちを持っていました。本当は志願なんてしたくなかったけれど、同調圧力をはねのけることは不可能だったという事もわかります。
直接戦争へ行かない人たちだって、食糧難だったり、学生たちだって、学校へ勉強しに行くのではなく工場労働をさせられたり、小さな子供たちは学童疎開で親と離れて暮らさなければならない状況です。空襲で死ぬ人、怪我する人を見て、自分も死の恐怖を体験し、元の世界が何としあわせだったのかということに気がつくのです。
この作品を読みながら、そんな主人公と今の自分を重ね合わせてみた人も多かったのでしょう。そうやって戦争のくだらなさ、悲しさを知るのは、現代の若者にとって衝撃的なことだったのかもしれません。
数年前に、卓球の早田ひな選手が「鹿児島の特攻資料館に行って、生きていることを、そして自分が卓球をこうやって当たり前にできているということは、当たり前じゃないというのを感じたい」と発言して、驚かせたことがありましたけど、この作品を読んだか、映画を観たのかして共感を覚えたからこその発言だったんじゃないかしら。
「考察する若者たち」で紹介されていたので読んでみたのですが、この作品から若者たちが何かを得てるのだとしたら、それは素晴らしいことだと思うのです。
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