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『翠雨の人』 伊与原新 26-121-3880

Suiunohito

翠雨の人(すいうのひと)

伊与原新(いよはら しん)

新潮社

 勝子さんは女学校を卒業後、理系の勉強をしたいと望んでいました。でも当時は、女子は進学するよりも結婚することを求められる時代でした。それでも彼女は両親を説得し、帝国女子理学専門学校(現・東邦大学理学部)へ進学しました。在学中に中央気象台の仕事を手伝うようになり、卒業後は中央気象台職員となりました。当時は第二次世界大戦へ男性がどんどん徴用される時代であったこともあり、女性が少しずつこういう職業に就くことができるようになっていたのです。

 実際に気象台で働くようになってからも、研数学館の夜間部で彼女は数学を学んでいます。実に勉強熱心な方であったのです。

 

 1954年3月1日、アメリカは太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁で史上最大級の水爆実験を実施しました。その実験が行われることを知らなかったマグロ漁船「第五福竜丸」が放射性降下物(死の灰)を浴び、乗組員23名が被ばくしたのです。

 その実験後、日本沿岸でも海水の放射線量が高くなりました。その測定を行っていたのが勝子でした。アメリカ側でも同様の測定をしていたのですが、勝子の測定値の方がアメリカの主張よりも放射能汚染が深刻であることを示していました。

 その数値を受け入れたくないアメリカ側の主張で、双方同じ条件で測定をしようということになり、勝子は単身アメリカへ乗り込んだのです。

 

 勝子さんは、いつも弱者側です。でも、ひるむことなく戦い続けます。そのために犠牲にしたことは数限りなくあるのでしょうけど、研究を辞めるという選択肢はなかったのです。だって、自分がやると決めたのですから。このアメリカの科学者との戦いだって、明らかにアウェイのハンデ戦なのに、それを言い訳にはしたくない、できる限りのことをやるという決意が本当に素晴らしいです。

 そして、原爆や水爆を作った当事者であるアメリカが、その破壊力を「正しく理解しようとしていなかった」という所に恐ろしさを感じました。この実験結果から出された論文によって、核実験の抑止につながったということを、この本で初めて知りました。

 

 勝子さんのおかげで、女性の研究者が増え、少しずつ地位向上もしてきましたが、男性と比較するとまだまだですよね。理系=男性というステレオタイプな考え方のせいなのか、実際にその世界を牛耳っているのが男性ばかりのせいなのか。

 この本によって、勝子さんのようなすばらしい研究者のことをもっと知ってもらうこと、女性研究者が特別ではない社会になることを、強く祈っています。

3880冊目(今年121冊目)

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