『明治のナイチンゲール 大関和物語』 田中ひかる 26-169-3928
この本を原案としている朝ドラ「風、薫る」では主人公の女性2人のうち、1人はシングルマザーで、もう1人は孤児という設定ですが、実際には大関和(ドラマでは一ノ瀬りん)と鈴木雅(大家直美)の2人ともシングルマザーでした。
明治時代に職業を持つ女性はほとんど存在していませんでした。男性が仕事をしてお金を稼ぎ、家族を養うというパターンしか想定されていないこの時代、夫や父を亡くした場合、実家に頼れる人は幸運です。大関和は母親と子どもと共に故郷を離れ東京で暮らすようになりました。一方、鈴木雅は夫の遺産はありましたが、子どもと共に婚家から追い出されました。
彼女たちが看護婦になろうと思ったのは、もちろん困っている人を助けたいという気持ちもありますが、自分で稼げるようになりたいというのが一番の理由だったはずです。彼女たちトレインド・ナース(訓練を受けた看護婦)が生まれるまでは、病院などで患者の面倒を見るのは「看病婦」と呼ばれる人たちでした。おまけに「あんな仕事をするほど貧しい人」という目で見られていました。けれども、彼女たちの経験値は決してバカにできないものでした。実際には手術に立ち会って医師の助手をしていたりもしていたのです。
医師たちは留学して医学を学んだ人もいましたが、病室を清潔に保つこととか、患者の意見を聞くなどの、今では当たり前のことはまだ何もできていませんでしし、ナースの仕事の重要性も分かっていませんでした。ナイチンゲール式の清潔を第一とする看護を学習したトレインド・ナースたちは、これまでのやり方で良しとする病院側と戦いながら、実績を上げていきます。
看護婦養成学校を作ろうと提案したのは、大山捨松でした。彼女自身、アメリカで短期間ですがナースの勉強(「鹿鳴館の貴婦人 大山捨松」)をしています。彼女の提案から生まれた看護婦たちが、その後の日本人を救う大きな力になったのは間違いありません。
最初は採用することに抵抗していた病院側が、看護婦の評判の良さを利用しようとしたり、しまいには看護婦養成学校を自分たちで経営しようと画策したり、本来は人々を助けるための病院が、利益追求や、自分たちの名声ばかり考えている嘆かわしいところもありました。
コレラ、赤痢、スペイン風邪などの感染症にかかったら、それまでの医学では「かかったら最後」だったのですが、衛生面を重視したナースたちの活躍によって、より多くの人たちの命が救われました。数年前に猛威を振るった「新型コロナウイルス感染症」でも、ナースたちの活躍は素晴らしいもので、称賛の声も上がりましたが、その割に待遇面・給与面では冷遇されているとしか思えません。
この本の中で、どこまでが仕事なのか、どこまでが奉仕なのかという論戦が何度も、大関和と鈴木雅の間で交わされています。人を助けたいという気持ちだけでいてはいけないしすべての人に平等に医療をと考えても、それも難しいことだし。医師が考える医療と、看護師が実際に行っている医療、そして患者やその家族が考える医療、それらが一致しない場合が多いということも、とても難しい問題です。
看護師(看護婦)というたいへんなお仕事に従事される方たちが、本当に報われる世の中になるのは、いつなのでしょうか?
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