『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』 朝野幸一 26-208-3967
学習障害に対する社会的認識が、日本は欧米などの先進国と比べてかなり遅れているということをご存じでしょうか。知的な障害と違って「眼に見えない」障害である「識字障害」などは、教師であっても認識していない人がかなりおり、「怠けている」「やる気がない」などと見られていることが多かったのです。
著者の幸一さんは、文字は読めるけれど書けない「ディスグラフィア dysgraphia」です。小学校へ上がってから、それに気づくまでにかなりの時間がかかってしまいました。
記憶力は良いし、読書も好き、だけど手書きで文字が書けないという症状を、最初は説明すらできませんでした。練習すれば書けるようになると信じて、たくさん練習をしました。でも、書けないんです。学校では、先生が黒板に板書したものを、自分のノートに書き写すという作業が必要ですから、それができないというのは、とんでもなく辛い状況です。
障害のある人から要望があった場合、状況に応じた配慮をすること(合理的配慮)が公的機関などで行われていますが、どこまでを合理的配慮とするかどうかは、要望側の説明にかかっているということが、この本の中で語られています。(2024年4月から、障害者差別解消法により民間企業などの事業者による提供も義務化)
幸一さんの場合、タイピングはできるので、iPadで文字入力をすることで、ノートを取る作業を代替していました。でも、彼が進学した中学校で使用しているのはCromebookで、そこには彼が必要な機能を持つアプリをインストールできないので、自分のiPadを持ち込むことを許可してもらう必要があったのです。彼の母親がプレゼンが得意だったので、とても助かったそうです。
そして、幸一さんには聴覚過敏もあるので、授業中は片耳に耳栓をするとか、個室で見張りの先生がいる状態でテストを受けるとか、iPadで回答を行うので、それを出力するプリンタは持参するとか、面倒なこともいろいろとありますけど、現在は彼なりに学校生活を楽しめるようになっています。
この本の中で何度か語られていましたが、近眼や遠視などで、眼鏡をかけて授業を受けることに対しては、皆が理解していて、誰も文句を言いません。でも、学習障害に対しては、理解不足が余りにも多いのです。ホントは、同じようなことであるはずなのに。
偏見と差別は知識不足から生まれる
知らないというのは怖いことです。「学習障害は知的障害と同義」なんて思っている人さえ、世の中にはかなりいるのです。
自分に障害があると分かっていても、「障害があることが知られていじめられたらイヤ」だとか、「自分だけ特別扱いされるのがイヤ」と思い、黙って我慢している人もいるし、本人は障害を肯定していても親が認めなかったりすることもあります。
理解しようとする家族を持っていた幸一さんは、とても幸せだと思います。電子機器を使うことで文章を書くことが楽しくなったし、なんてったって、この本を書くことができたことが素晴らしいです。当事者が感じるディスグラフィアを、こんなにもわかりやすい文章にしてくれて、ありがとう。
こんな風に、世の中にはいろんなことで悩んでいる人がいて、こんな風に対処してますという記録が、同じようなことで悩んでいる多くの人の役に立ちますように!
3967冊目(今年208冊目)
« 『地べたから考える』 ブレイディみかこ 26-207-3966 | トップページ | 『はじまりのスープ、夏ゼリー』 瀬尾まいこ 26-209-3968 »
「伝記・日記・ノンフィクション」カテゴリの記事
- 『ゾルゲの見た日本』 リヒャルト・ゾルゲ 26-242-4001(2026.08.28)
- 『咲く。宇野千代の生涯』 葉山由季 26-249-4008(2026.09.04)
- 『超人ナイチンゲール』 栗原康 26-237-3996(2026.08.23)
- 『すごい長崎 日本を創った「辺境」の秘密』 下妻みどり 26-230-3989(2026.08.17)
「日本の作家 あ行」カテゴリの記事
- 『ペコロスの母に会いに行く』 岡野雄一 26-254-4013 (2026.09.09)
- 『傘寿まり子 7』 おざわゆき 26-256-4015(2026.09.11)
「発達障害・学習障害」カテゴリの記事
- 『14歳、字を書けない私が「書く」喜びを手にするまで』 朝野幸一 26-208-3967(2026.07.26)
- 『わたしは、あなたとわたしの区別がつかない』 藤田壮眞 25-94-3490(2025.04.07)
- 『発達障害・グレーゾーンのあの人の行動が変わる言い方・接し方事典』 野波ツナ 24-183(2024.06.27)
- 『刑務所しか居場所がない人たち』 山本譲司 24-179(2024.06.23)
- 『奇跡のフォント』 高田裕美 180(2023.06.29)
« 『地べたから考える』 ブレイディみかこ 26-207-3966 | トップページ | 『はじまりのスープ、夏ゼリー』 瀬尾まいこ 26-209-3968 »




コメント