『地べたから考える』 ブレイディみかこ 26-207-3966
いまは知らんが、わたしが高校に通っていたころの日本では、関心のない教科でも関心のあるふりをして学び、それなりの点数を釣ることが要求されていた。なのに、わたしは授業中に全く関係ないジャンルの本を読んだり、白紙で回答を提出し続けた教科もあったので、「関心のあることしか勉強できない人間は、将来、社会で通用しない」と大人たちによく説教された。
だが、大人になって英国で子どもを育てたわたしは、英国の公立高校では自分の好きな科目を3つ選んで授業を受ければいいし、大学受験もその3教科だけでいいといういうことを知っている。「通用する国もあるじゃん」といまさなながら大人たちに反論したくなるのだ。(はじめに より)
この本はブレイディみかこさんがこれまでに発表した本から抜粋された文章で構成した、中高生向けの本です。日本の学校や家庭では習わないこと、体験しないこと、想像すらしたことがないことが、この本にはいろいろと登場します。それが、この本を手にした人にとってどれだけの衝撃を与えるのか? わたしは、そこに大きな期待をしています。
欧州の場合、そのスタンダードは低い。なにしろ、人間という存在であるだけでいいからだ。富者も貧者も、善人も悪人も、働き者も怠け者も、すべてのものが神の似姿であり、それゆえ等しく崇高だという概念が建前上はある。
しかし日本にはその考え方は根付かなかった。
「日本では権利と義務はセットとして考えられていて、国民は義務を果たしてこそ権利を得るのだという事になっています」
自己評価レベルが低い人が、日本人、特に若者には多いと様々なところで言われているし、実際にそう感じることが多いのです。その根本にある部分を、上記の文章は上手く表現していると思います。日本にいるととかく言われがちな「自己責任」とか「働いてから文句を言え」とか言うバッシングの言葉は、「すべての人間は存在する価値がある」という思想がないからこそ、投げつけられるのです。
障害があるとか、貧しいとか、外国人だからとか、女性だから、子供だから、老人だから、そんなことを理由にしてバッシングしてくるのは「優生思想」と変わらない、とても危険な考え方です。でも、それがまかり通ってしまうのは何故なのかと考えてみると、その方が都合が良い、悪い人が国を動かしているからだということに気づきます。
でも、そんなことを考えもせずに「自己責任」とか「よくわからない正義」を押し付けてくる人は、普通の人であることが多いのです。その人たちだって、何かに押しつぶされていて、他者を攻撃することで自分の方がまだましと考えようとしています。そういう負の連鎖が起きるのは、悪い人たちにとっては、とても都合のいいことなのです。
戦勝国の名首相(チャーチルは英国で「史上最高の首相」投票があるたびに不動の一位だ)が、戦争で勝った年に選挙で大敗したのである。それは、当時は純然たる社会主義政党であった労働党が、「ゆりかごから墓場まで」と言われた福祉国家の建設を謳い、企業を国営化して人びとに仕事を与えることを約束し、子供や老人が餓死する必要のない社会を作ると公約して戦ったからだ。労働党にはスター党首などいなかった。彼らは本当にその理念だけで勝ったのだ。
普通の人々が国を作っているのだという考え方があるからこそ、選挙で自分たちにとって意味のある政権を選ぶのですが、どうも日本という国では、そういう発想が育っていません。それもまた、「すべての人間は存在する価値がある」という思想のなさが原因であるような気がします。
青少年だけでなく、大人もこの本を読んで、「どんな人だって、自分たちの幸せを願う権利がある」ということを知って欲しいと思います。それを知らずに、自分を大事にしてくれるのは誰なのかを考えるという、民主主義の大前提を理解することはできません。
そして、自分がこれまで当たり前だと思っていたことが、他の人にとっては当り前でないということが、そこかしこにあるのです。そういう「地べたから考える」ことの大事さを、みんなが考えるようにならなければ、世界は少しもよくなりません。そういうことを知るヒントが、この薄い本の中にたくさん詰まっています。
〇この本で紹介されていた本
・「それで君の声はどこにあるんだ?」榎本空
・「世界マヌケ反乱の手引書 増補版」松本哉
・「何が私をこうさせたか 獄中手記」金子文子
3966冊目(今年207冊目)
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