『違国日記 5』 ヤマシタトモコ 26-245-4004
槙生は実家にいた頃、姉の実里からいつも「ちゃんとしろ」と言われ、そのたびに反発してきました。「できないわたしの身になって考えたことなんかないだろう」と。そして、そんなにも自分に干渉してくるあんたこそ問題があるんじゃないか?「あんたの中身が空虚だから、あたしに強く指示することで、自分の存在を確認してるんだろう」と。
実里は優等生でした。勉強でも、部屋の整理整頓でも、なんでもそつなくできる。できないことなんて、ないはずでした。でも、朝の父親は、自分と結婚してくれなかったのです。朝が生まれて、彼は戸籍上の父親になったけれど、自分は内縁の妻のまま。夫であるはずの人は、戸籍上は他人のまま。わたしは、ふつうのことはなんでもできるはずだったのに、夫とふつうの夫婦になることができなかった。それは、誰にも言えなかったんです。
槙生は実里とはずっと没交渉だったから、彼女が交通事故で亡くなって、初めて「姉は内縁の妻」だったことを知って、驚いたのです。
亡くなった実里は日記を残していて、それには「これは朝が20歳になったら渡そうと思っている」と書いてありました。槙生はその言葉を尊重して、その通りにしようと思い、朝には見せないでいたのだけど。
朝が初めて学校をさぼったのは、両親が亡くなってから、ずっと自分の感情を押し殺していたせいなんだろうなぁ。今頃になって、やっと実感が湧いたんだと思う。
誰にだって、悲しいとか、淋しいとか、苦しいとか、助けてとか、という感情があって、でもそれを隠していることが多いんです。だって、それを誰にぶつけていいかわからないんだもの。こんなこと言って、相手に迷惑じゃないかとか、嫌われるんじゃないかとか、ネガティブなことばっかり考えちゃう。でもね、いるんだよ必ず。そういうことを黙って聞いてくれる人が。
4004冊目(今年245冊目)
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