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『超人ナイチンゲール』 栗原康 26-237-3996

Nightingale

超人ナイチンゲール

シリーズ ケアをひらく

栗原康(くりはら やすし)

医学書院

 ナイチンゲールに対するイメージって言われて思いつくのは「白衣の天使」という人が多いともいます。「博愛の心に満ちた聖人」というイメージを持つ人もいるでしょう。それは間違っていないけど、実際の彼女はそんな、きれいなだけの人ではありませんでした。

 この本はナイチンゲールの伝記というよりも、彼女自身になりきって振り返ってみた、神から与えられた看護という使命を全うするために、ありとあらゆる努力を続けた人の心の叫びをまとめた本なのです。

 

 両親は英国人で、超がつくお金持ちでした。3年におよぶ新婚旅行(それくらい優雅な暮らし)の途中、イタリアのフィレンツェで生まれた彼女は、この土地の名から「フローレンス」という名がつけられました。働かなくても、どんなに散在しても、お金の心配などしないで暮らせるナイチンゲール家。屋敷を新築する間に、ヨーロッパを一周する旅行をしましょうというくらいの余裕っぷり。

 お母さんはパーティー好きで、お父さんは大学を3つも出ているインテリ、お姉さんはお母さんに似た性格だけど、二女のフローレンスはお父さんの影響を受けてか本を読むのが好き、勉強が好きな少女になっていました。両親の交友関係で出会ったアカデミックな人たちから影響を受け、様々な学問を学び、「看護」の勉強をしたいと思うようになります。でも、母親はそれを許してくれません。さっさとお金持ちの家へ嫁に行けというスタンスを崩しません。

 

この因習に満ちた社会は男性が女性のためにつくったもの。そして女性もこれを受け入れてきた。この社会では、女性はなにも所有してはならず、猫かぶりの道化芝居を演じなくてはいけない。そして女性には情熱などないと嘘をつく。自分にも嘘をついているのだから、娘たちにもほかに言いようがない。P111

 フローレンスは生涯、様々な試練に立ち向かいますが、戦争よりも、病気よりも、一番やっかいだったのは、自身の母親だったようです。当時は看護など卑しい職業だと思われており、そういう考え方を持つ母親の眼を盗んで、いかにして看護の勉強をできるようになるのかに、何年もの月日を費やします。母親と姉をだましだまし、看護学校へ入って勉強を始め、実際に看護の仕事につくようになります。

 看護の仕事といっても、最初は病人を収容する建物の掃除、換気など、清潔さを保つという所から始めなければなりません。(これは朝ドラ「風、薫る」でもやっていましたね)包帯を毎日変えることなど、患者本人の清潔さを保つことも大事です。そして、食事の改善(あたたかくて、おいしいものを提供する)なども行いました。

 医師は男ばかりだから、最初はフローレンスのいう事など聞く気もありません。でも、彼女は諦めません。死亡数の減少などの数字などを使って(数学も得意)、自分がやっていこうとすることの意義を主張し、意見を通していくのです。

 そんな中でフローレンスが考え出した「配膳用エレベーター」「ナースコール」などは、今に続く大発明です。

 

軍隊では、上からの命令には絶対服従。組織として効率的にうごくために、兵士たちはなにも考えてはいけないと言われている。屈従せよ。自分のあたまを働かせてはいけない。それが規律なのだ。
だけど、なにも考えずに戦地に送りこまれ、なにも考えずに密集して雨後に、なにも考えずに汚い病院で寝ていたら、そのうちに感染症で死んでしまう。自然じゃない。人間の組織がひとを殺しているのだ。
だけど、一人ひとりが医療の知識をもっていて、それをおしえあう場があって、医療スタッフにも相談ができて、政治的な知識もあって、国にいる時から戦争に反対出来たらどうだろう。ちがう結果になっていたはずだ。P200

 フローレンス・ナイチンゲールを一躍有名にした「クリミア戦争」は、ロシア帝国と、それを邪魔したいイギリス・フランス・オスマン帝国(トルコ)の戦いです。この時に派遣された看護師たちは、本来ならば一致団結しなければならないはずなのに、派遣元の宗教の違いでいがみ合っていたりして、てんでバラバラ、それを何とかまとめていった彼女の手腕は、軍人たちをも唸らせるものでした。

 そして、1856年9月にヴィクトリア女王陛下と会える機会を得た彼女は、医療に関する直訴をしています。軍隊でも、政治でも、医療でも、どこへ行っても男ばかりの世の中で、女王陛下のお墨付きは大いに威力を発揮しました。

 

 この本、とにかく面白いです。前半では、なかなか看護の勉強へ辿り着けないフローレンスにやきもきし、思わず「頑張れ!」と思ってしまいます。看護師になってから赴任した戦場の病院では、上司の命令しかきかない役人や軍人のために物資がそこまで来ているのに、現場に持ってきてくれません。そこで「分かったわよ、自分でやればいいんでしょ!」と私財で物資を購入し、配布するフローレンス。それくらい金持ちという事もありますけど、お金の使い方をキチンと理解していた人とも言えます。カッコいいぞ、フローレンス!

 治療しても、看護しても、やっぱり助からない人はいます。そういう人の手を握り、話を聞き、家族への手紙を代書するということもしていたフローレンス。「心の看護」も大事だと気づいていたからこそ、できたことです。

 「超人ナイチンゲール」というタイトル通りの、すごい本でした。

3996冊目(今年237冊目)

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