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『ゾルゲ事件80年目の真実』 名越健郎 26-274-4033

Zorugejiken

ゾルゲ事件80年目の真実

名越健郎(なごし けんろう)

文春新書1477

ゾルゲ事件とは、ドイツ人リヒアルト・ゾルゲと元朝日新聞社員尾崎秀実を中心とする国際諜報団(ラムゼイ機関)による第2次世界大戦前夜の日本の政治、外交、軍事等の情報を、ソ連共産党(コミンテルン)に通報していた極めて大がかりなスパイ事件であった。

 リヒャルト・ゾルゲはロシア生まれのドイツ人です。1933年(昭和8年)9月にフランクフルター・ツァイトゥング紙の日本特派員として来日し、8年にわたって当時の近衛内閣のブレーンであった元朝日新聞記者、尾崎秀実などの協力を得て、日本とドイツの政治、経済及び軍事に関する最高機密情報を入手し、ソ連へ送っていました。その諜報活動が発覚し、1941年(昭和16年)10月に検挙され、1944年(昭和19年)11月に尾崎と共に処刑されました。

 ゾルゲは在日ドイツ大使オットーと親密な関係を持っていました。彼は新聞記者でありながら、大使館内に席を持ち、大使のブレーンとしての仕事もしていました。ドイツとソ連の双方へ同じ情報を流すこともあったし、日独の情報を大使から直接入手してソ連へ流すこともあったのです。

 

 この本で知り、驚いたのは、当時のソ連のトップであったスターリンがゾルゲを信用していなかったということです。帰国を促し、粛清しようとしていたこともあったそうです。それを察知したゾルゲは帰国せず、日本に滞在し続けたとか。そして数年後、スターリンは「ゾルゲの情報は信用できる」と言ったそうで、この手のひら返しは何なのでしょうね。

 

1941年にゾルゲから渡された電文を全部打電したとすれば、4万語くらいになっていたと思うが、実際には1万3千余りしか打電しなかった。

 ゾルゲの情報を無線で流していたクラウゼンが、指示された電文をかなり間引いて送っていたということにも驚きました。ゾルゲの文章が大量すぎて、これを全部送っていたら、自分の身が持たないと思ってサボっていたと後日語ったそうです。つまり、ゾルゲが伝えたいと思っていたことの半分も送れていなかったということになります。

 

 ゾルゲは頭もいいし、語学にもたけていましたが、何よりも優れていたのは「人たらし」だったということだったと思います。特に、女性にモテたというのは大事なことです。政治家や起業家の妻や秘書といった人たちから得る情報は、普通のルートでは知ることができないものでした。日本に来て間もない頃はバイクで都内を走り回っていたそうで、さぞかしカッコよかったんでしょうね。

 

 第二次世界大戦後、ソ連ではゾルゲは忘れ去られた人でした。でも、彼が再び脚光を浴びるキッカケとなったのが、岸恵子とガガーリンだったのだそうです。

 岸恵子はゾルゲの獄中日記を読んで感動し、当時夫だったイブ・シャンピ監督で「スパイ・ゾルゲ 真珠湾前夜」という映画を製作しています。1964年にこの映画を観たフルシチョフが「彼こそが真の英雄だ」と言ったそうです。

 1961年に初めて宇宙飛行船「ボストーク1号」で地球を始めて周回し「地球は青かった」の名言で知られるガガーリンは、日本へ訪れた時に、多磨霊園にゾルゲの墓があることを知り、墓参したそうです。その時に、在日ソ連大使館の人から「そんなことをしては困る」と言われたのですが、「英雄の墓参をして何が悪い。あなたから反対されたとフルシチョフへ伝えてもいいのか」と反論したのだそうです。

 ガガーリンが、ゾルゲの墓参をしたことも凄いですが、むしろ、フルシチョフに直接意見を言える立場だったということに驚きました。

 

 ロシアの現在のトップであるプーチンは、ゾルゲに憧れてスパイになったと公言しているそうで、銅像を建てたり、数多くのゾルゲ通りができたりしています。今年(2026年)は北方領土の無人島にゾルゲと名付けています。彼の人気にあやかりたいのかもしれませんが、そうはいかないでしょうね。

4033冊目(今年274冊目)

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