『誤訳するこの世界で僕は』 ブレイディみかこ 26-276-4035
イギリスへ語学留学した青年は、ブライトンでひとり暮らしをする大家さんの家の「離れ」で暮らしています。この部屋は、どうやら民泊用に作ったらしいのですが、民泊で使う人たちによって家が荒れることがあったようです。そこで、長期間滞在する留学生に貸すことになり、「僕」はここで暮らすようになりました。
大家さんは大柄な人で、かつては大工さんだったそうです。僕が住む離れも彼自身で建てたそうです。
僕は大家さんの部屋へ遊びに行って、いろんな話をします。午後だったら紅茶とビスケットが出てくるし、朝ごはんを作ってもらったこともあります。話好きの優しい大家さんには友達も大勢います。
僕の学校の友達とか、大家さんの友達や近所の人と話をしていると、とんでもない事がいろいろあることに驚きます。「ワクチン陰謀説」とか、「移民問題」とか、いろんなことを大声で議論したり、デモをしたりする人がいて、その中へ入っていけないなぁと思うばかりです。
そんなことを大家さんに話すと、こんなことを言ってくれます。
熱い紅茶とビスケットがあれば、たいていのことは忘れられる。
納得したから何かを信じるというより、信じたいことを信じることの方が多いからな、人間は。
普通の暮らしをしている人が、子供の将来を思って「とてもお金がかかる学校」へ入れたけど、政府が変わったことによって補助金が出なくなって、学費を払いきれなくなったのを目の当たりにして、これが現実なのかと驚くこともありました。
日本での大学生時代、コロナ過で孤独に過ごしていた僕にとって、ブライトンの人たちとの関りは、うれしい気持ちと、ついていけないという気持ちでかき乱されます。
みんな、自分の気持ちに正直で、こんなことを言っちゃいけないなんて遠慮はなくて、逆に、「そういうのは嫌だ」ということも自由で、これまで日本で培われてきた「黙ってやり過ごす」しか知らなかった僕は、いろんなことを考えます。
友人や隣人たちと話すとき、タメグチになれない僕は、人との距離を常に感じているんじゃないかな。そんな中で、大家さんとは距離感がグッと近づいたのは、彼にとって大きな進歩なんだと思います。
彼は日本に帰ってから、そのまま暮らしていくのか、それとも、また外の世界へ出ていくのかは分からないけど、ここで見たこと、聞いたことを、きっと一生忘れないでしょう。そして、表面上の言葉や姿から想像したこととは違う現実があるということを忘れないでしょう。そして、また、大家さんと一緒に紅茶を飲みたいなって思うんだろうなぁ。
#誤訳するこの世界で僕は #NetGalleyJP
4035冊目(今年276冊目)
« 『働きたくない日は、カフカを読む。』 キム・ナムグム 26-275-4034 | トップページ | 『プレゼント』 伊坂幸太郎、江國香織、恩田陸、梨木果歩、町田その子、宮部みゆき、米沢穂信 26-277-4036 »
「日本の作家 は行」カテゴリの記事
- 『ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。』 haru 26-281-4040(2026.10.04)
- 『誤訳するこの世界で僕は』 ブレイディみかこ 26-276-4035(2026.09.30)
- 『魔力の胎動』 東野圭吾 26-250-4009(2026.09.05)
- 『団地のさんにん』 藤野千夜、北澤平祐 26-247-4006(2026.09.02)
- 『咲く。宇野千代の生涯』 葉山由季 26-249-4008(2026.09.04)
« 『働きたくない日は、カフカを読む。』 キム・ナムグム 26-275-4034 | トップページ | 『プレゼント』 伊坂幸太郎、江國香織、恩田陸、梨木果歩、町田その子、宮部みゆき、米沢穂信 26-277-4036 »




コメント